永瀬清子

  「4月の詩」

   早春

     あけ方に ふと目がさめると

     空気が なんとなく にぎやかだ。

     春が来ている。

     地虫や草の芽のよろこびが

     気温の中に こもっている。

     私の心も しずかに もどけて

     生まれてから過ごした たくさんの春の

     やさしい とりどりの思い出が よみがえって来る。

     早く死んだ昔の人が

     世にくたびれた私に いたわりの声をかけてくれる。

     しずかに あけてゆく空色の中に

     オレンジジュースがそそがれる。

     その時 自分に対しても きびしすぎたことが

     やっと私にも わかってくる。

     ああ かの人にばかりでなくーーー。

     すっかり朝があけると

     古い径に欅のこまかい枝の影が

     まるで焰のように あおく きらめく。

 

                            永瀬清子詩集  1975年 思潮社